20代のファーストキャリア、セカンドキャリアに、NPOを選ぶ若者がいます。
NPOの中では新卒採用を行っている団体も増えてきました。しかし、NPO業界、お世辞にも人材育成の制度が充実しているとは言えません。
「社会起業家」が切り拓いた荒野を耕していく彼らを、どのように育むのかが大きな課題です。
今回はNPOの人材育成の現場を、3ヶ月にわたって行われた「NPO若手スタッフ交流研修」を切り口に、認定NPO法人カタリバやNPO法人ReBitのインタビューを通してお伝えします。
NPO若手スタッフ交流研修
2017年秋、「NPO若手スタッフ交流研修」と題して3ヶ月間のプログラムが行われました。
NPO若手スタッフ交流研修とは?
4回の集合研修とグループワークをベースにしながら、社会課題に対する提言をまとめます。対象はNPOに所属する社会人1〜5年次。募ってみると、思いのほか多くの若手スタッフが集まりました。2000年代に立ち上がった8つのNPOから、19名のスタッフが集まりました。
まずは、このプログラムを企画したフローレンスの2人、そして、スタッフを研修に送り出したカタリバで人材育成を担当する2人に話を聞いていきます。
「新卒を採っても、育てられるわけないだろ!」からはじまった
今村 僕はカタリバでインターンをしていた大学4年生の時に、ETIC.の「社会起業塾」に参加しました。それが一つのターニングポイントだったんですね。
一同 へー!
今村 みなさん、リアクションいいですね(笑)。
その時、同じ課題に取り組んだ、塾の仲間との切磋琢磨が、自分を成長させたと思っています。
だから今回のお話をいただいた時に、絶対にやろうと。
宮崎 今回の企画のはじまりは、フローレンスが新卒採用をはじめたことです。
今村さんが言う通り、色々な刺激を入れて切磋琢磨させないと意味がない、と思っていましたが、新卒が3人と少なかった。
そこに井上が、今回の企画を持ち込んでくれて、「初年度は業務としてではなくてもいいので、やらせて欲しい」と。
井上 そうしたら、真理子さんが「いいじゃん、やろうよ」って(笑)。
今村 めっちゃいいと思います!NPO業界って、創業者同士は仲がいいんですよね。
そんなコミュニティが、若手にもあるといい。
菊地 カタリバも今までは、新卒が毎年一人いるかいないかくらいだったんですが、この春には4名が入社します。
井上 そうなんですね!新卒層が、各団体にこんなにいるとも思いませんでしたね。
ー フローレンスが新卒採用をはじめたのは、どのような経緯で?
宮崎 組織には、多様性が必要だからです。
フローレンスは、事業が「子育て支援」の領域なので、30〜40代の子育て真っ盛りのスタッフが多かったんです。そこでまず、年齢構成を多様にするために新卒をいれようと。
また、新卒の彼らは真っ白です。フローレンスの文化を注入した、フローレンス人材を育てることができると思い、決めました。
井上 最初、経営から「新卒採用をする」と言われた時、大反対したんですよ、絶対育てられないから。
宮崎 そうそう。育成の仕組みなんか全くなかったからね、目の前の事業に必死で。
OJTと、リアルの打席に立って、経験するだけ。そこに、井上が「新卒入れるんですか!」と。
今村 ただでさえ忙しいのに、殺す気ですかと(笑)。
宮崎 「理想ばっかり語ってもできないんですよ!」と経営会議でキレられましたね(笑)。
でも、いざやる、となると整えてくれました。
菊地 カタリバも、この春の新卒入社に合わせて、マナー研修などの基礎研修や、カタリバカルチャーを知ってもらうような集合研修を用意するようになりましたね。
宮崎 そうなんですよね。
そして特によかったのが、社内に「育てよう」という気持ちが培われた点です。育てる方も成長するので良い循環が生み出されました。
ー そんな彼らをはじめ、若手スタッフに期待していることは?
井上 私は最初「外の世界を知って、揉まれてこい」くらいの感覚でこの研修プログラムを企画しました(笑)。
今改めて考えてみると、NPOは、企業とは全然違う脳みそを使います。
井上 熱く夢を語って支援者を集め、戦略もつくって、数字も見れなければいけない。
一方、行動してなんぼなので、「率先行動」が大事。
さらに一方、率先行動しながらも、ひとりでチマチマやっててもダメで、仲間を巻き込んでいかなければいけない。
そんなちょっと矛盾するような考え方を両立して使える、NPOを引っ張る存在になってほしいです。
菊地 私は、カタリバをファーストキャリアとして選んでもらって嬉しいし、組織の中で活躍する人になって欲しいのはもちろんあります。ですが、中でしか通用しない人ではなく、色々な所で活躍していける人になってほしい。
今村 僕は、カタリバ自体、学生が起業した法人ですので、「まっさらな人が、大きなことを成し遂げられる可能性」を信じています。
なので、新卒には染まるだけではなくて、自分の可能性を大きく試して欲しいと思っていますね。
宮崎 私は、変革者になって欲しい。社会を変える力を持っている人になって欲しい。そのための力が2つあると考えています。1つが、コラボレーションすること。
今村 超共感します。1団体だけ、NPOだけで解決できるアジェンダはほとんどないですよね。官民の壁や、行政機関の縦割り、…分断されたものを糊付けするのが、ソーシャルセクターの役割です。そういう力は必ず求められる。
宮崎 おっしゃる通りですね。
2つ目は、気づいて、踏み出して、続けること。
ぼーっと生活してたら、何の課題にも気づかない。でも、気づいても何もできない人もいる。まして、私たちの仕事は、採算を考えたら難しいことも多い。そこを何とかして産み出して、ピボットしながら続けることができる人になって欲しい。
あとは、「ない」ことを楽しんでほしいかな。やっぱり何もないんですよ、悪いけど。
一同 (笑)
宮崎 夢はあるね、ビジョンもある(笑)。それ以外のことはなんでも、自分たちでつくるしかない。それを楽しんで欲しい。
菊地 本当にそうですね。
私たちは、クレドで「当事者意識」を掲げています。社内の小さいことから、社会の大きなことまで、自分が今すぐ解決できなくても、やれることがちょっとでもあるんじゃないか、と考えて欲しい。
今村 20代でソーシャルセクターに飛び込み、何もない環境で、もがくことができる。これは、人生における投資として費用対効果も大きいし、意味があるよね。
誰かに守られないといけない人生ではなくて、自分でつくっていく人生のはじまり。
菊地 参加させたスタッフの感想を聞くと、少しずつ変化も感じます。
今村 普段の業務でも、ストレッチした目標を立てているよね。
僕は、最初に研修の建てつけを聞いた時に、「これは起業家が、起業当初にやったことの模擬体験だな」と感じました。先ほど話にあった、「率先行動」をやっていた一風変わった人たちが、起業家。
でも、ある種、「職員採用」という枠の中で応募をしてきた若手のスタッフたちには、「率先行動」が当たり前というマインドセットはなされていない。
それが、当たり前であるということ、を引き出してもらえたのはありがたかったです。
(座談会ここまで)
NPO交流研修とはどんな内容だったのか。
改めて、NPO交流研修とはどんなものだったのか詳しくお伝えすると、目的は3つです。
①業務スキルの向上
②視野の拡大
③同世代コミュニティの形成
これらを達成するために、グループワークと研修を交え、社会問題に対してソリューションを提案するという課題に取り組みました。
グループ研修を進めるにあたっては、「社会問題解決のプロフェッショナル」を輩出するために、ビジネスセクターのトップランナーにご協力いただきました。
まず、NPOの人材に求められる、複数のステークホルダーを取りまとめ合意を形成し、ゴールへ導くためのプロセスを設計する力を、GOB Incubation Partners株式会社 代表取締役の櫻井亮氏に学びました。
次の研修は、一般財団法人クマヒラセキュリティ財団 代表理事の熊平美香氏に、 社会課題を構造的に捉え、その問題を解決するためのソリューションを考えるために、「氷山モデル」や「セオリーオブチェンジ」といったプロセスと手法を学びました。
最後に、株式会社アム 代表取締役社長で、フローレンスやNPO法人クロスフィールズの理事を務める、岡本佳美氏に、 プレゼンテーションのシナリオ設計をはじめとした、支援者の共感を生むための『伝える力』を学びました。
団体は違えど、同じビジョンに向かう仲間がいる
このように、フローレンスの新卒採用開始がきっかけではじまり、プロフェッショナルを巻き込んで行われた今回のプログラム。
実際に参加した団体のひとつNPO法人ReBitの二人に、感想やこれまで抱えていた課題を聞きました。
ReBitは、代表の藥師(やくし)さんが起ち上げました。今は、学生メンバー約500名と活動しており、5名のフルタイム職員は全員が20代です。話を聞いた三戸さん、金澤さんは、新卒で入社した会社を一年足らずで退職し、ReBitに参画しました。
NPO法人ReBit
「LGBTを含めた全ての子どもが、ありのままのすがたで大人になれる社会」を目指し、教育現場での出張授業やLGBTの就活支援等の活動をしている。2009年に学生団体として発足し、2014年にNPO法人化した。
ー 研修参加前はどのような気持ちでしたか?
金澤 私はプレッシャーで、行きたくなかったです(笑)。
団体の中でも、ほぼ新卒の私たちをどうするかが課題だったようです。なので、この研修に対する期待も大きくて・・・。
三戸 私は、2つ楽しみがありました。
一つは、スキルの向上。学生時代から想い一つでやってきましたが、普段の業務に、ビジネススキルが追いついていませんでした。
そして、もう一つは同年代の仲間と出会えることが楽しみでした。LGBTの問題に取り組む人や、ソーシャルセクターの人は上の年代が多く、「切磋琢磨できる仲間」ではなく、先輩という感じでした。
ー 研修に参加してどうでしたか?
三戸 実は今、ReBitで2025年までのビジョンを描きなおしています。
今の「ビジョン」「ミッション」は代表がつくったもので、1からつくるプロセスに参加したことがなかったので、どこから手を付けていけばいいかわからなかった。
「氷山モデル」や「セオリーオブチェンジ」を学ぶまでは、どのように整理し、体系化していけばいいのかがわからなかったのですが、ReBitに持ち帰って活かすことが出来ました。
金澤 私は、同じビジョンに向かう仲間が、こんなにいることが本当に嬉しかった。
三戸 たしかに。3ヶ月、色々な団体と関わって、「NPO業界、熱い若手がいっぱいいる!」と思いました。なかなか普段は、社会を変えることを「面白い」と言えないし、問題意識について共有できることもあまりなかったね。
チームメンバーは、皆年次が5年以下。「私ももっとできることがたくさんある」と刺激になりました。
金澤 「プレゼンテーション」などの業務スキルの向上や、モチベーションアップももちろんですが、視座が上がりました。
集まったメンバーは、熱い想いを持っている人ばかり。日頃は個人の思いを振り返ることもあまりないので、研修はよい機会でした。
日々の業務で忙しく、事務所と家の往復になっていて、フィードバックもReBitの仲間からしかなかったので、多方面からフィードバックを受けられたのもよかった。
ー 研修で学んだスキルを活かして、どのような社会をつくっていきたいですか?
三戸 「一人一人の選択肢が、せばまらない社会」というのをつくりたいと、あらためて思いました。ReBitの活動の中で、性的マイノリティーであるために、あきらめた人を多く見てきました。
三戸 子ども・若者の課題に取り組む団体が多かったですが、「選択肢をせばめない」というところが共通の思いとしてありました。いっしょに連携して、「大丈夫だよ」と伝えていきたい。
金澤 私は、子ども達が何か一つの特性や障害のせいで、「自分なんか」と考えてしまわないようにしていきたいです。
ReBitは、LGBTの問題に取り組む団体と思われることが多いですが、例えば、障害者を支援する団体と連携するとか、新しいものを生み出すことや変化をおそれず活動したいです。
(インタビューここまで)
志の大地を耕すために
これまでのNPO業界は、冒頭でご紹介したカタリバの今村さんの言葉を借りるなら、「一風変わった社会起業家」が、何もない荒野に種を撒いてきたようなものです。
そして今、ReBitの2人のような芽が出て、それを育てる人、水をやる人がいる。
こんな風に、次々と新しい芽が出て、花を咲かせていく。
その循環が始まっていけば、荒野がいつの間にか、多くの人を支える生態系になるはずです。
このプログラムがきっかけに、ソーシャルセクターがますます耕されていき、多くの若者が参画する豊かなセクターになれば、社会はもっと速く、よくなると信じています。